世界一わかりやすい「プロセスマイニングとは」

プロセスマイニング(Process Mining)は業務プロセスを分析する手法の一つで、業務の履歴を記録したデータを使って、業務の流れを図式化する技術です。業務にかかった時間や頻度を分析することで、業務時間やコストの削減などの業務改善をすることが可能です。

目次

プロセスマイニングのイメージをつかもう

業務のデータからプロセスを可視化するといっても「どんなデータを入れるの?」「どんな情報が見れるの?」「どんな業務に使えるの?」といった疑問が湧いてくるのではないかと思います。まずはどのような形式のデータを用いて、プロセスがどのように可視化されるのかを見ていきましょう。下記はプロセスマイニングに使うデータと、実際の可視化のイメージ図になります。

業務を記録したログデータはイベントログと呼ばれます。このイベントログは、企業がすでに持っている業務ログデータを加工して作られるケースが一般的です。

イベントログに使えるデータ

ではどんなデータがプロセスマイニングに活用できるのでしょうか?実は、企業のあらゆる場所にプロセスデータは眠っています。例えば、”ERP”と呼ばれる財務や販売などの社内業務を管理するツールに溜まっているログデータを抽出して、企業の購買業務のイベントログを作成するという活用方法が一般的です。特にSAPというソフトウェアが有名です。ERPについては詳しく知りたい方は、下記のサイトを読むのがいいでしょう。

ERPとは?基幹システムとの違いやERPパッケージを解説

他にも、Google Analyticsのデータを抽出してWebページに訪れたユーザーの遷移データをイベントログとして扱うケースや、工場の工程管理表などからプロセスを抽出するなどのケースも代表的です。業務の種類は、企業や業種などによってさまざまです。プロセスマイニングに活用できるデータは他にもあらゆるところに転がっているはずです。

イベントログに必要な情報

イベントログには最低でもケースID、アクティビティ、タイムスタンプの3つのデータが必要です。

ケースID : 一連の業務を紐付けるためのID

アクティビティ : 行った業務の内容

タイムスタンプ : その業務が開始された時間

その他に担当部署や地域、コストなどの属性データを加えてインポートできるプロセスマイニングツールも存在しますが、上記の3種類のデータ(ケースID, アクティビティ, タイムスタンプ)のデータがあればプロセス図の可視化が可能です。またデータ形式はCSV形式のものが多いですが、プロセスマイニング専用のXESという形式も存在します。どの拡張子のデータに対応しているかは、プロセスマイニングツールによります。

プロセスマイニングの基本的な機能

ここからはプロセスマイニングの基本的な機能であるバリアントエクスプローラーという機能を紹介します。

バリアントとは「プロセスのパターン」のこと。

例えば下記のデータがイベントログ内に含まれていた場合、ケース1001と1003はどちらも設計→施工→完了という遷移パターンになっています。つまり1001と1003は同じバリアントであるということになります。

企業の購買業務をイメージしたデモデータを用いて、下記にバリアントエクスプローラーの画面を表示します。バリアントエクスプローラーは、バリアントごとにプロセスを分類し、分析していくための機能です。右下のスライダーを操作することで、表示したいバリアントの数を変更することができます。例えばこのプロセス図では、1番ケース数が多いバリアントと2番目に多いバリアントを表示しています。また、画面右下のグラフを見ると、一番多いバリアントにケースが集中し、多くの割合を占めていることがわかります。この機能を用いて、バリアントエクスプローラーでは業務プロセスが標準化されているかどうかを評価することも可能です。

このプロセスマイニングツールは、一般社団法人プロセスマイニング協会で配布されている無料のプロセスマイニングツール「みんなのプロセスマイニング」(略してみんプロ)を使用しています。みんプロについてはこちらを参照してください。

APMJ プロセスマイニング協会 |

プロセスマイニングの活用

プロセスマイニングには段階的な3つの活用方法があります。

ディスカバリ : プロセスを可視化する

コンフォーマンス : プロセスが適切かの評価を行う

エンハンスメント : プロセスを改善する

ディスカバリ

先ほどにあげたみんプロを例にします。2番目に多いバリアントには「支払いブロックの削除」というアクティビティが含まれています。これは支払いのブロック(拒否)が発生していることを意味しています。支払いブロックの発生によって、支払いに遅れが出ていることがわかります。このように、データを用いてプロセス図を可視化し、「自分たちの業務プロセスがどんな状態であるか」を把握していくことがディスカバリの要です。支払いのブロックが発生しているプロセスに絞り込んでバリアントエクスプローラーを再表示することで、支払いのブロックが発生しやすいプロセスの特徴を分析することなども可能です。絞り込みは”フィルタリング”という機能を用いて行うことができます。プロセス図を使って業務のファクトを確認し、条件を絞り込みながら業務プロセスの問題発見をしていくのがディスカバリです。プロセスマイニングで特徴的なプロセス図を活用した、最も基本的な分析方法です。

コンフォーマンス

コンフォーマンスとは「適合性」という意味です。プロセスマイニング周辺の話ではAs isとTo beという言葉がよく出てきます。As isとは現在の状態、To beとは理想的な状態を指します。コンフォーマンスとはプロセスの理想の状態と現状の乖離が何%あるのかを軸に分析を進めていくことを指します。To beの定義の仕方はさまざまですが、登場すべきアクティビティの種類や理想的な順番、プロセスが終了するまでの時間などを指標とすることが多いです。一部のプロセスマイニングツールではコンフォーマンス機能が搭載されており、自分の理想的なプロセスを設定することができます。イベントログから、理想に対して現状が何%適合しているかを算出して表示したり、具体的にどのような想定外のアクティビティが発生しているのかをアラートしてくれる等の機能を持っています。

エンハンスメント

プロセスマイニングに限った話ではありませんが、データ分析は可視化をするだけでは意味がありません。可視化した結果から課題が発生している根本原因を特定し、継続的な改善を行わなければいけません。エンハンスメントとは、各プロセスの問題に応じて対処できる仕組みを作ることです。例えば既に分析しているデータから、支払いまでの承認のフローが間違っているために支払いのブロックが生じるプロセスがあると分かっているとします。この場合、現行のプロセスをリアルタイム分析している際に同様の問題が発生していると分かったタイミングで、警告の通知をしてくれるような仕組みを作ることがエンハンスメントに当たります。

プロセスマイニングが活躍する分野

あらゆるところに分析できるプロセスは潜んでいると思いますが、ここではプロセスマイニングがしばしば活用される、代表的な分野を紹介していきます。

購買業務

本記事内でも何度か例に上がっている購買業務は、プロセスマイニングの代表的な分野です。購買発注はどんな企業でも行う業務ですから、多くの企業にとって馴染みやすいという点、そしてERPシステムなどからデータが取得しやすい点が、プロセスマイニングがよく用いられる理由だと考えられます。また、プロセスマイニングはドイツを起点としてヨーロッパに広まった技術であり、その周辺国では期限内に支払いを終えられると割引を受けられるという文化が存在します。プロセスマイニングによって支払いを期限内に終えやすくなると利益にも直結するという点も、この分野にプロセスマイニングが用いられた理由の一つでしょう。

製造業

製造では不良品の発生率や工場全体の生産性を向上させることが重要になります。また製造工程を記録したデータも存在するケースが多く、分析のとっかかりが得られやすい分野です。不良が発生する根本原因やボトルネックとなっている箇所をプロセスマイニングを用いて可視化することで、生産体制の改善に役立てることが可能になります。

金融業

金融業では、プロセスマイニングを不正検出に活用することが多いです。トランザクションプロセスのデータを用いてプロセスを可視化することで、不正な出金等を検出しやすくなります。これはコンフォーマンスチェッキング機能を持ったプロセスマイニングツールとの相性がよく、怪しいトランザクションを効率よく見つけることができます。

その他

他にも多くの分野でプロセスマイニングは活用されています。例えば、システムのメンテナンスで障害が発生してから修正を反映するまでの作業プロセスの最適化、Webマーケティングにおける顧客の購入導線の分析、顧客サービスにおける顧客の待機時間削減によるユーザーエクスペリエンス工場など、あらゆる分野においてプロセスマイニングは時間やコストを削減し、利益を見込むことができます。

まとめ

プロセスマイニングは業務をデータによって可視化でき、プロセスを深掘りしながら分析を行える技術です。業務の流れと時間を表示したプロセス図を扱うのが特徴で、一般的なBIツールなどのデータ分析ツールではできない分析をすることができます。そして従来このような業務プロセスの可視化は非常に大変なものでした。業務プロセスを可視化するためには、現場のマネージャーを一同に集めて業務の内容をインタビューしながら、ポストイットを使って業務の流れを可視化するということが実際に行われていました。対してプロセスマイニングはそのようなヒアリングが必要ないという点、そしてデータという事実に基づいて可視化された信頼性の高い結果を得られるという点が強みです。プロセスマイニングを用いることで、組織を俯瞰することができ、業務を根本的なレイヤーから見直すことができます。プロセスマイニングについて理解と、今後の業務の改善の一助として、この記事が役に立てば幸いです。

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この記事を書いた人

Shunsuke is the president of JPMT, a company specializing in process mining. Committed to unlocking the value in data, Inoue advocates for the democratization of data to make it accessible and useful for all.

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